2010年10月31日日曜日

医療費の経済的エビデンス

科学的根拠(エビデンス)に基づいた医療(EBM)については
このところ広く目にし耳にすることが多くなってきました。
でも、経済的エビデンスという言葉をご存知でしょうか。

医療の科学的エビデンスに、経済的エビデンス(経済的な指標)を加味して
総合的に医療費を判断し
公的保険や税金で何をどこまで賄うのかを決定しようという考え方だそうです。

では、医療の経済的エビデンスとはいったい何でしょうか。
それは、ある治療法や薬による「費用対効果」の問題です。
「費用」は治療にかかる費用
「効果」とは、その治療により受けることのできる恩恵とでも言えばいいのでしょうか。
生存期間や、その治療が患者にもたらすベネフィットや
普通に生活できる期間がどのくらいになるのか、といった事です。

英国などの先進国では、すでにこのような考え方が採用されており
英国では、普通の生活を送れる状態で1年間長生きできた場合に
追加で支払ってもよい治療費の上限の目安を3万ポンドとしているとか……

日本でも、最近、医療費の財政問題に関するニュースが目立っているように思います。
例えば
一千万円以上のレセプトが年々増えている(2009年度155件件)や、
高額療養費についての厚労省よる試算のニュース
そして政府の行政刷新会議のライフイノベーションワーキンググループが
公的医療保険の適用範囲を真剣に検討すべきという意見があがったというニュースなどです。
これらのニュースは
行政からの「そろそろ真剣に討議しなければ」というサインのように
私は思っています。

私自身、がんと診断された時に、まず頭に浮かんだのが「医療費」
そして、直ぐに保険会社に電話しました。
医療保険とがん保険で、なんとかなりそうと一安心。
で、やはり何よりの安心は「国民皆保険」制度だったという事は、言うまでもありません。
この医療に対する大きな安心となっている国民皆保険制度を守るためにも
今、医療費の費用対効果に関する議論は、必要だと思います。
けれども、これは非常にセンシティブな問題で
うっかりすると、あの後期高齢者制度の時のような感情論に走ってしまうのではないか
とも思います。

がんに限らず、どんな病気でも治療費は患者にとっては大きな問題です。
特に、がん領域では、今後もどんどん新たな薬や治療法が開発され
それらの治療を受ける事ができることでしょう。

その時、私たちは何を目安にその治療を選択するのでしょうか。
治療費だけで、治療を諦めなければいけない、というのも悲しい事です。
同時に、生存期間は伸びたけれど
その間、耐え難い副作用と付き合わなければならない、という状況も辛い事だと思います。

医療費の費用対効果の問題は、一人ひとりの、死生観にもつながる問題です。
難しいけれど、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

がんの経済的エビデンスについては
がん治療費.comがん治療の科学的エビデンスと経済的エビデンス
を参照しました。
詳しくは、そちらをご覧下さい。

2010年10月29日金曜日

ブックレビュー「ヒトはどうして死ぬのか 死の遺伝子の謎」

「ヒトはどうして死ぬのか 死の遺伝子の謎」
田沼靖一 幻冬舎親書

細胞に存在する「死のプログラム」がアポトーシス。
そのカウンターとなっているテロメア。
そしてもう一つの死のプログラムがアポビオーシス。
人間は必ず死ぬことができるようにこれらがプログラムされている。

著者は、科学者として、死生観が失われている現在を愁い
有限の時間を生きる意味を死の科学から読みとり
新たな死生観を持つことが大切だとも書いています。

この本を読みながら私は
流転という言葉や
般若心経の世界を感じていました。

昔の人たちが肌で感じ、精神を研ぎ澄まして感じた自然の摂理が
今、科学で解き明かされている
その科学の恩恵で、便利な生活を送っている現代の私たちは
自然の摂理を感じることも
「死」と向き合うこともしなくなった……
特に宗教を持たない私たち日本人からは
「死」が遠ざかっているとはよく言われることです。

著者が書いているように
私たちは今、死の科学から新たな死生観を持つ必要があるのかもしれませんね。

どうしたって逃れることのできない「死」
でもその「死」は、実は、未来の人類のためにあり
それを感じる時、死は永遠へとつながる……

この壮大な宇宙観とも言える視点を感じることができる本です。
ぜひ、ご一読を……

2010年10月21日木曜日

ブックレビュー「がんと一緒に働こう」

「がんと一緒に働こう 必携CSRハンドブック」(CSRプロジェクト編 合同出版)

CSRプロジェクトのCSRとは
Cancer Survivors recruitingの略で
がん患者の就労を考えるプロジェクトです。
このCSRプロジェクトが、がん経験者に呼びかけて作った本です。

がんになっても、働き続くために知っておきたい働く権利や
雇用主とのコミュニケーションの取り方
保険や社会保障の事
どこに相談に行けばいいかや
ワーキンググッズや生活術
などが書かれています。

ここに書かれている事は
がんと診断されても働き続けるために必要な事ですが
ぜひ、多くの人に読んでほしいと思いました。
がん患者さんも、そうでない人も……
もし、職場の同僚や部下ががんと告知されたと知った時
きっと役立つはずです。

この本の最初にも
「がんになっても働き続ける解決策を社会と共有するために、この本は存在する」
と書かれています。

問題を共有すれば、そこに解決の道も見えてくるのではないでしょうか。

2010年10月18日月曜日

リレーフォーライフとグリペック

この間「高額療養費」の話題の中で
グリペックの話をしました。
ところで、このグリペック。
アメリカでのリレーフォーライフで集まった寄付金が
開発の後押しをしたそうです。

びっくりすると同時に
患者としては、うらやましい限りです。
asahi.comがん その先へ(4)より
日本で開催されているリレーフォーライフで集まった寄付金は
日本対がん協会により
がん相談や、若手医師のための奨学金
そして検診率向上のために使われています。

でも患者としては
○○という新薬の治験のため
○○の臨床試験のために使ってもらえたらなぁ~と
思っていたところ、次のニュースを見つけました。

それは「日本癌学会」の第69回学術総会特別企画
「今がん研究に求められること―がん研究に関する提言―」
に関するニュース
です。

関原健夫さん(大腸がんサバイバー・日本対がん協会常務理事)が
「欧米では多額の募金が研究者への助成に使われている。
学会は、積極的に情報を発信し、患者の力を得て
日本にがん研究の応援団を作るべき」
と患者・支援者との連携の必要性を訴えた。

なるほど、寄付金をがん研究に直接関係する分野で使ってもらおうと思っても
がん研究の分野でも、縦割り組織の弊害があるのですね。

ところで、学会というと私たち一般市民からは、雲の上の存在のように感じていますね。
そして、そこでどんな研究が行われ、私たち患者や市民にどのように役立つのか
という情報が、不足していますね。
だから、学会というと、私たちの日常生活とは、何の関係もない
遠い存在になってしまっています。


このニュースでも、ある患者会の代表者が
「先生方からアクションを起こして患者会を有効利用していただけたら……」
と発言されたそうです。

日本でも、リレーフォーライフの寄付金が
がん研究に役立つようになるためには
まだまだ、いくつものハードルを越えなければならないようですね。

2010年10月13日水曜日

高額療養費について

高額療養費制度とは、高額な療養費を支払った時に健康保険組合から一定限度額以上分の支払い額が帰ってくるありがたい制度……と思っていました。
でも、結構ややこしいのです。
差額ベッド代や食事療養費などが自己負担の対象にならない、というのは納得できます。
しかし
一ヶ月とは1日から末日までのこと
自己負担額はレセプトごとに計算されること
通院時と入院時に支払った費用も別々に限度額をこえていること
などは、ちょっと分かりづらいですね。

何せ、乳がんと告知されるまで
いたって健康で、医者嫌いの私は
病院とは縁なく、まして、高額療養費制度など
ちょっと聞きかじっていた程度。

で、告知され、入院・手術・放射線治療と過ぎていくなか
聞きかじった高額療養費制度の皮算用。
ところが、実際かえってきた金額は、私の皮算用よりは少な目。
そこでようやく、先に述べたような
高額療養費制度のややこしい事情を知ったのでした。

高額療養費制度のややこしさも問題ですが
今、問題にされているのが、その財源です。
医療が進歩し、新たな治療法や薬が患者に恩恵をもたらすようになった反面
その医療費は、高額になっています。
そのような現状では、高額療養費制度はなくてはならないものとなっています。
ということは、財源が膨らむ一方、という事です。
厚労省の発表では、高額療養費の見直しに2600億円必要、とも言われています。
しかし、この2600億円という試算が、果たして正しいのか、という意見もあります。
厚労省も、「粗い試算」としています。

ちょっと話は変わりますが「グリペック」という薬をご存知でしょうか。
この薬は、慢性骨髄性白血病の特効薬と言われています。
この薬を飲むことで、普通の日常生活を送りながら、病と共存することができるのです。
けれども問題は、この薬が「高額」で「飲み続けなければならない」という事です。
患者負担は、高額療養費を利用しても一ヶ月10万円以上になるといいます。
この自己負担金を払い続けることが困難となり
「金の切れ目が命の切れ目」という問題が、現実に起こっているとの指摘もあります。

ある試算によると、このグリペックの売上げ額は464億円(2009年)とか
この試算を行ったグループによると、高額療養費の見直しに必要な財源は550億円としています。
厚労省の試算2600億円に比べ、5分の1程の金額になっています。

国民の命に関わる医療費の問題です。
厚労省は「粗い試算」などと言わず
この際「きちんとした(信頼できる)試算」を出して
国民に示してほしいと思います。

そして、私たち国民も
これら医療費問題について、真剣に議論しなければならないと思います。

私たち一人ひとりの命を守るために
何を公費で補い
何を自己責任とするのか
それは、難しい選択となるでしょう。
しかし、財源は空から降ってくる訳ではないのです。

参考にしたHPです。
gooニュース「自己負担限度額見直しの影響を試算」2010年9月8日

Infoseek・内憂外患「がん患者を経済危機から救え グリベッック」

キャリアブレイン「医療保険制度の根本見直しに向けた意見提出へ」2010年5月10日

キャリアブレイン「高額療養費制度の見直しを求め要望書提出」2010年5月21日

医療ガバナンス学会メールマガジン「高額療養費制度見直しに2600億円も必要ですか」2010年10月12日

高額療養費については、以下の厚労省のページをご覧下さい。
厚労省:高額療養費制度を利用される皆さまへ

2010年10月8日金曜日

乳がん体験者のゴスペル

12月に開催される「乳がん体験者のゴスペル」の練習が始まりました。
久しぶりに見る楽譜と、英語の歌詞に、四苦八苦しています。

初練習に向かう電車内で、ふと「不思議だな」と思いました。
それは、私の人生でゴスペルを歌うなどという選択肢があるなんて
思ってもいない事だったからです。

思ってもいない事は、ゴスペルだけではありません。
乳がんと診断されてから、私の目の前に次々と新しい世界が広がってきました。
病の事を勉強して広がった世界
同じ病の人との出会いを通じて広がった世界
その全てが新鮮で、全てにワクワクしています。

それは、
がんと診断されてから、私自身が
より積極的に生きるようになったから
かもしれません。

患者が治療を選ぶということ

「がんナビ」というサイトの「肝がんには2種類ある!」という記事を見て
思い出したことがあります。

この記事は
肝がんには、肝細胞のがんと肝臓以外の臓器で発生したがんが転移したものがあり
両者は、全く異なる性質を持ち、治療法も異なる。
この違いを理解して、適切な治療を……
という内容です。

詳しくはこちら→クリック

実は私も長年、この勘違いをしていました。
私の母は、30年前にがんで亡くなったのですが
ず~っと病名を「肝臓がん」だと思っていました。

自分が乳がんと診断され
遠隔転移について勉強して
ようやく、その間違いに気づきました。
母の病気は
「大腸がん」で「肝臓への遠隔転移」
なのでした。

また、ある時
知り合いに、乳がんについて色々話していた時に
この遠隔転移の話になり
「もし肝臓なんかに転移したとしても
肝臓がんではなくて、乳がんの遠隔転移だったら
乳がんと同じ治療なんだって」
と言うと、知人も「へぇ~っ」と、驚いていました。
その時「遠隔転移」の事って
多くの人が勘違いしているんだなと思いました。

がん治療においては、しばしば、その治療法の選択を迫られる時があります。
その時、まず自分の病を正しく理解している事が大切です。
そして、自分の人生観や価値観も問い直してみる必要があるでしょう。
そして、今の自分が一番大切にしたい事を考え
治療を選択していくのだと思います。
その時、標準治療であっても
その優先したい事のために、標準治療を選択しない場合もあるかもしれません。

乳がんでは、乳房を失いたくない……という理由から
手術ではない、切らない方法での治療を望む方もいらっしゃいます。

もしそれが、その方の人生の価値観で、ベストの選択なら
私は、まずはそれが尊重されてもよいと思っています。

ただ、大前提として
自分の病を正しく理解すること
は必要です。

私が、自分の病を正しく理解するため
非常に役だったものがあります。
それは、病理検査の時のメモです。
vol-netという乳がんのサイトで見つけた病理検査のチェックリスト
このチェックリストを印刷して主治医に見せると
主治医が、説明をしながら、記入して下さいました。

その時は、説明を受けながら、内容も十分理解した筈でした。
その後、乳がんについていろいろ勉強しました。
そして、半年後、そのチェックリストを見直してみると
随分、いろいろな事を、誤解していました。
都合の良いように解釈していた事や
とても心配しすぎていた事があることがわかったのです。
今でも時々、そのチェックリストを見直すことがありますが
つくづく、病を正しくするのは難しいものだなと思っています。

患者が治療を選ぶ時には
正しい知識と同時に
常に、自分が選択した治療を見直す事も必要かなと思っています。
時間が経てば、その人の置かれている状況や環境や
体調や病にも変化が出てきます。
また、新たな治療法や薬が出てきているかもしれません。
一度決めた治療法でも
主治医や医療者と相談しながら
常にその見直しをすることが大切ではないかと思います。

そして、何よりあってほしいのは
このような難しい選択を迫られる患者へのサポート体制です。
時には、自分の人生観から見つめ直す事も必要なこともあります。
そのサポートには、医療関係者のみならず
あらゆる分野からのサポートが必要なのです。

2010年10月6日水曜日

笑っちゃおう!!の会

がんサロンに参加されている方が「笑っちゃおう!!の会」を企画されています。

不安や恐怖を、この場に置いて
明日からの一歩を踏み出してほしいと
音楽と語りとおいしい食事をしながらおしゃべりしよう
という会です。

10月24日の日曜日、午後の一時を
ご一緒に楽しみませんか?

詳しくは、こちらをご覧下さい(クリック)→http://ameblo.jp/fuku-jun/

ゆったりと流れる音楽に身を委ね、みんな笑顔になれればいいねっ。
今から、楽しみです!!

免疫という言葉の危うさ

「免疫力を高める食事」
「笑いは免疫力を高めます」
免疫力は、体の防衛反応のようなもの
その力を高めると、感染などに強くなる
体を健康に保つことができる

一般的に「免疫力」は、このようなイメージで
語られることが多いのではないでしょうか。
そのため「がんの免疫療法」に対するイメージも
一般的に、良いイメージを持たれているように思います。

でも、がんの免疫療法は
臨床試験段階です。
ですから、エビデンスがあるものではありません。
なのに、一般的に何かよいイメージを持って語られることに
ある危うさを感じてしまいます。


このようなとてもイメージのよい「免疫」という言葉に
ある危うさが潜んでいるように思っていました。
そして、次に紹介する記事を見つけました。

チームオンコロジー.com
連載コラム―それぞれの立場から
vol.29「がん免疫療法は確立された治療法か」


そのコラムには

インターネットで「癌免疫療法」という言葉を検索しますと、数多くのサイトがヒットします。その多くが、スポンサーのサイトや免疫療法を行っていると言われるクリニックの情報です。がんの免疫療法の可能性はあるにしても、信頼できるエビデンスが多くない状況で、これほど多くのクリニックで免疫療法が提供されているのは、不思議な感じがしますし、問題になることも多いかもしれません。

免疫療法を受けたいという希望がある方は、適切な臨床試験で証明されていない免疫療法を提供しているクリニックや、がん細胞数(病期)に関係なく効果がある、治癒するなどの誇大広告をしているクリニックではなく、臨床研究(試験)を行っている施設や、高度医療と承認された免疫療法を提供している施設で、ご相談の上、免疫療法を受けるかどうかを決めることをお勧めします。

と書かれています。

高度先進医療を行っている施設は、厚労省のサイトで確認できます。


また、がん免疫療法で検索したところ、次のような文章を見つけました。
そこには、「免疫療法の問題点」として
末期になってから免疫療法が試みられることが多いが
それでは、本当の効果はわからない。
早期から積極的に使われるようになれば、もっと良い評価が得られるのではないか
というものです。

でも、この考え方には問題があるように思います。
ある新しい治療が、有効かどうか、安全かどうか
それは、綿密に計算された臨床試験や治験を繰り返し
多くのデータを集めて
初めて評価されるものなのです。

先程、紹介した文章では
「とにかく、この治療法は効果がある。
でも、未だ評価されないのは
積極的に利用されていないからだ」
という事だと思うのですが
効果がある証明、すなわち、エビデンスが確立されていない治療を
積極的に行うという危険性が、考慮されていないように思います。
エビデンスはないけれど
まずは、使って効果を確かめよう
という事なのでしょうか。

治療(医療行為)は、命にかかわる行為
という事を
医療者はもちろんのこと
私たち患者も今一度、心に刻む必要があるように思います。

がん免疫療法について、がん情報サービスに詳しく解説されています。